伝えきれない君の声


「それに…」


「それに?」


――あなたに出会えた。



「…何でも無いです。」


そんなこと言えるはずない。


私もお茶を飲み、
少し俯く。


「君は、本当に音楽が好きなんだね。」


俯いていた目を上げ、
彼を見る。


倉田瑞季は少し切なそうに笑っていた。


「羨ましいな…」


なんてね。
くしゃりと笑い、
プリンを食べ進める。


「なんか俺ばっか食べてない?」

「いやいや、食べてください。」


彼の「羨ましい」が耳に残りつつ、
わたしもプリンのカップにスプーンを滑らせた。





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