カナリアンソウル
「私も複雑」

嫌なことをいつまでも覚えていたくはないので、淡々と授業を聞いて、部活に没頭した。

部活も終わり、私は学校を離れ、いつもの公園に来た。

小山の向こうで、二十代ぐらいの男女が言い争っている。

私は、男女から少し離れた場所に座った。

貴と初めて喋ったのっていつだっけ…

楽しい思い出は形に残さないと、滑稽なほどすぐに忘れてしまう。

明日また普通に貴と話そう。

ケロっと開き直った態度でいることが肝心。

そんな事を思いながら、家に帰ろうと草原を立ち上がった。

「瞑!」

急に誰かに肩を掴まれて、反動のまま身体ごと後ろに振り向いた。

「貴だ。どうしたの?」

貴がここに来るのは珍しい。

「ちょい座って?」

そう言われ、とりあえずまたその場に座った。

「朝はごめん。言い過ぎたよな」

「寒い」

私は膝を抱えた。

「大丈夫?」

だいじょばねーよって言うのは、ちょっと可哀想だからやめた。

「気にしないで。この通り大丈夫」

スカートを膝まで引っ張って笑ってみせたけど、貴は納得がいかないかのように「う〜ん」って一言。

下を向いて、何かずっと考え込んでいた。
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