カナリアンソウル
未だに、こうして貴と顔を合わせるようになったことが不思議に感じられる。

貴は小学校からの同級生なのに、一度も話したことが無かったから。

こんなド田舎の街で、高校入学まで一度も話さなかったのは、彼が怖いから。

私の顔を見つめるひろみの視線に気圧されながら、声を詰まらせ上手く言葉が出せない。

チャイムが鳴って担任が教室に入って来た。

私の顔を軽くつねって、「あー!始まった!」とひろみは残念そうにして体を前に向けた。

あれだけ本人の前で宣言してしまったし、これ以上なにを言えば良いのか。

貴はいつの間にか自分のクラスに戻った様子だった。

靴の爪先を床にぶつけてトントン鳴らすのは、ひろみがイライラしてるときの癖。

後ろから少しだけ見える表情。

黒板の方に視線を向け、誰も聞いていないHRを必死に進めている担任を見た後で、静かに伏せられたまつげが泣いてるように見えた。

「卓人となんで別れたの?」

「うちが、最近お腹痛いって言ったんだ。そしたら喧嘩になっちゃって。子供出来てたらどーしてたんだよ」

「病院行ったの?」

「なんかさぁ、そーゆーときに男らしくないと幻滅しちゃうよね」
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