Whistle
何故だろうか、それほど迷うこと
無く、自然に足が進んだ。

来たことも無い、知らない場所
に行っているのにも関わらず、
ナツは歩いていた。

そして……足が止まった。

かなり大きな木の陰に誰かが
いるのが分かった。

口笛を吹くのを止め、ナツの存在
に気付いたようだ……

ナツと変わらない位に見えるが、
顔は見えない。座っている為、
身長も良く分からない。

『君は誰?』小さなメモ用紙が
足元に飛んできた。

ナツは自転車を止め、緊張して
汗ばむ手を握った。

「私は渋谷ナツです…あなたが
口笛を吹いていたんですか?」
ナツは言った。

自分でも声が裏返ったのが
分かり、余計恥ずかしくなる。

木の影に隠れたままの誰かは
ギターを少し弾き、しばらく沈黙
していた。

「…私…あなたの口笛もさっき
のギターも好きです。だから…
聴かせてもらっても……」誰か
がまた、ギターを弾き始めた為、
ナツは黙った。

『僕は春維』彼のメモ用紙が
言った。

切なげなメロディがギターから
奏でられた。春維は黙って、ナツ
は木の反対側に座って、春維の
ギターを聴いていた。
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