伝う玉梓【短編】
伝う玉梓
あの人はなんと思っているのだろう。
今や文の欠片しかそこには残されていない本を開いたまま、ふとそんな考えが浮かんだ。
所詮は子供の口約束。
そうはわかっていても、読み書きを除いて他にする事のなかった自分にとって、この育つ一方の想いを忘れる方が困難なのだ。
なんとなく、その欠片を読み上げる。
なんの気持ちも持たず発する声は、周りに反響して、ほんの少しだけ、胸が満ちる気がした。
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