気まぐれ猫
前進
 「兄貴が学校に行くと言い出した」
 放課後に俺は、気味の悪いくらい素敵な笑顔の猫に呼び出された。
 連れて行かれたのはほとんど人が通らない校舎裏。本気でリンチかと思った。
「あんた、兄貴に何か言った?」
 正直に……怖い。
「い、いや。何も」
 それでも猫は、鬼の形相で俺を見ている。
「……俺は言ってないけど……」
 そこまで言うと猫は、今にも食ってかかってくるのではないかというような目つきで俺を見た。
「前にお兄さんの見舞いに行った時に、お兄さんが俺に言ったんだ。学校に行こうと思うって」
「……そっか……」
 猫はそう呟いて、行ってしまった。
 俺はその背中をただ見つめるしか出来なかった。
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