地味子の秘密 其の参 VSワガママ姫サマ
携帯のカーソルを動かす度に、様々な表情の杏が出て来る。



「あ……………」


高二になる前の春休み。

杏の療養も兼ねて出掛けた温泉旅行の時の写メ。

パーティーに行くために、振袖を杏に着せた。



「………やっぱ杏が1番綺麗になんのは、和服を着た時だよな」


パーティー中……若い男達の視線は痛いし、おやじ達はニヤニヤとした目で杏を見るしで…大変なパーティーだった。

本人はまったくもって気づいてないし。


当時のことを思い出すと、顔に笑みが燈る。



「………杏……会いてぇよ」


呟いた瞬間――…頬を涙が伝った。



もう一度……会いたい。

声が聞きたい。

抱きしめたい。


今まで抑えていたモノが溢れ出し、携帯の画面を濡らす。


画面の中の杏は―…もう還って来ない………。
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