HEMLOCK‐ヘムロック‐


 新宿区某所のオフィスビル。

――都会のオフィスビルと言えば聞こえはいいが、駅前のショッピングモール等と比較すると見劣りしてしまう様な小さめなビル。
そんな7階建てのビルの4階に、黒菱(くろびし)興信所は存在する。


 興信所とは依頼を受け、商事や人事を秘密裏に捜査し、その報酬で成り立つコンサルティング企業である。

いかにもビジネス的な響きだが、依頼が無ければそもそも成立しない。そしてこの黒菱興信所の流行り具合も、オフィスビルの大きさに比例していたりする。


 久々に舞い込んだ貴重な仕事の為に、男は自室で服を念入りに選んでいた。


「やべぇ。靴下全部穴空いてんなー」


 黒いソックス片手に肩を落として嘆く青年。彼こそが黒菱興信所所長、黒菱 界(くろびし かい)。一応こんなでも探偵である。
この通り、一番偉い筈の所長がまともな靴下も履けない程この興信所は廃れている。
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