HEMLOCK‐ヘムロック‐
 黒菱探偵社――界の兄、礼二の社長室に本人が入って来た。その手には白いポットとカップを乗せたトレイが。


「秘書が居なくなったからな。早い所後任を探さないと、俺の紅茶がどんどん上手くなってしまう」


 礼二なりの冗談だったらしい。が、界は結構本気で受け取ってしまった。


「そんな、俺なんかに気ぃ遣わなくていいのに。まぁ紅茶淹れてる兄貴が見れるなんて、なんか面白ぇーけど」


 その言葉と同時に礼二の机の電話が鳴り出した。礼二が電話のスイッチを押すと、女性の声が響いた。


『社長、鳳至 詠乃様です』

「通してやってくれ。案内はしなくて大丈夫だ」

『かしこまりました』


 礼二は机から離れ、界の目の前のソファーに座った。


「詠乃君にはお前達の事を調べる際にかなり世話になった。
実際、紅龍會や『HEMLOCK』についての情報は殆ど詠乃君が突き止めてくれた」

「ったく、ホント恐ろしい人だよ。一体どうやって調べてるんだか……。
なぁ、詠乃さんが昔スパイやってたって、マジ?」

「さぁな」


 礼二は紅茶を一口啜った。絶妙な濃さのアールグレイ。

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