ロデオ・カルテット─シールドロック─鳥籠編

4話/白い月

 意識を食われたとそれは観念した。

 どうあがいても奴らの下から抜け出せないと、この業界に足を踏み入れた時から知っていた筈だった。

 それでも、自分は真っ当な選択をしたのだと信じたかった。

 目の前にあるものが投与された薬で段々と霞がかってくる。

 もう、意志がない。

 上がってくるのは黒く汚れた感覚と、人間が捨てた野獣の自由。

 押さえ込まれた感情が、身体を駆け巡り自制心を無くし始めていた。

 なにもかも失えば楽になる。

 後は、せき止めてある理性を消せば良い。

 苦しむこともなく、煩わしい聖者の戯れ言に耳を貸すこともなく、ただ、欲望のままに踊り狂えば良い。

 捨ててしまえば、怯えることもない。

 全てを無くして。

 自分を捨て、権力も金も人間関係も無かったことにして、ただ、破壊を目的として生きる。

 力はみなぎっているのだ。

 人以上のものだ、自分はやれる。

 小さな部屋の片隅で、震えているだけの人生とは決別するべきだ。

「もう少しね」

 女の声に顔を上げる。

 いや、目線だけを上げるがもう見えてはいない。

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