最後の夏-ここに君がいたこと-
「い、いや、ぜっ全然!!!!」


大げさなくらいめいいっぱい否定する。

力を入れすぎて声が裏返ってしまった。


聞き間違いか!? 幻聴か!?
陸が……格好良い……!?


「そうかなぁ、格好良くなったよぉ。皆も言ってるよ」


梢子がきょとんとした顔で言い放った。


「ど、どうしたの。梢子……勉強のし過ぎなんじゃ……? もしくは暑さにやられて……?」


「失礼だなぁ! 正常です。陸、後輩の女の子から人気みたいよ」


「うっそ。ありえないでしょ」


顔の筋肉が引きつる。そんな話聞いたこともない。

梢子が少し意地悪に笑った。


「へぇ、じゃあもし陸が誰かと付き合っても志津は何とも思わないんだ?」


「うん、全然」と反射的に即答した。が、


「え。待って……そうなるともう一緒に登校できないのかな?」


「そりゃそうよ。彼女だって嫌でしょう」


「……勝手に部屋に入って漫画も読めない?」


「もってのほかだね」


「え―……」


それはちょっと……寂しいかもしれない。



いや、小姑的な意味で!
あくまでも弟を取られてしまった姉的な意味で!



「きっと、志津は毎日一緒に居るから気が付かないだけだよ」


……確かに毎日一緒に居る。


「で、でも陸だよ!?」


陸が格好良いだなんて、簡単に認める訳にはいかない。
陸の数々の格好悪いエピソードを梢子が忘れてしまっているのなら、思い出させてあげなくては。


「小3の時森に迷って大泣きしたり、通学路に居る犬が怖くて学校に来れなくなったりした、ヘタレ中のヘタレだよ!?」


いっそのこと“キングオブヘタレ”とでも名付けてやろうか。






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