最後の夏-ここに君がいたこと-

28歳

今日も朝からやたらと暑い。

裏山のセミ達が、この夏に生きた証を残そうと必死に鳴いている。

その音をかき消すようにして、山の向こう側から錆びた音を立てて電車がやってきた。
見覚えのある古びた木造の駅に電車が止まると、カツンと乾いた音を立てて、黒いハイヒールを履いた女性がホームに降り立った。


この町には相応しくない、都会的な女性。

白のシャツに、細身のデニム、ブランド物の真っ黒なバッグを肩から掛けていた。


ゆるいウエーブのかかった茶色のロングヘアーが、昼下がりの太陽に照らされて艶やかに光っている。

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