最後の夏-ここに君がいたこと-
サッカーなんてどこでだって出来るじゃない。

高校卒業してから留学したっていいじゃん!と次々とあふれ出してくる自己中心的な気持ちが、喜びたい気持ちを押しのける。

そんな超複雑な私の心中なんかまるで知らない周囲は、更に私の心をかき乱した。


商店街の大人たちは私と陸に会う度に「おめでとう」「悠太はすごいなぁ」「2人も嬉しいだろう」と笑顔で話しかけてくる。

私が「嬉しいわけないじゃん」と、ふくれっつらで答えてると、陸が「ごめん、こいつガキだから」とフォローするのが日常化していた。

悠太と口を聞かなくなって1ヶ月以上が過ぎたある日。

サッカー部顧問の佐藤先生が「長谷川は大物になるぞー」と浮かれた様子で、廊下にいた志津と陸に近付いてきた。

その第一声に反応した私は、反射的に佐藤先生を睨み付けていた。


悠太の話題なんか聞きたくもない。


「俺はさぁ、あいつはいつかやると思ってたんだよなぁ。オーラが違うんだよな、長谷川は!」


「まじっすか、オーラ見えるなんて先生すごいですね」陸が相槌を打つ。


何だ、オーラって。佐藤先生の言葉のひとつひとつがイライラする。


「もし長谷川が将来代表入りしたら、恩師に取材!とかで俺の所にも取材が来たりしてなぁ。いや~参っちゃうね!」


ああ。もう何なんだろう、この人は。


「それは取材陣殺到間違いなしっすねー」


陸の適当な相槌で、佐藤先生はすっかり気を良くしたらしい。

満面の笑みで私の肩をポンと叩いた。


「お前ら幼馴染が有名人になるなんて鼻が高いなぁ!」



――違う。



瞳から大粒の涙が、ぼたぼたとこぼれ落ちた・

これには有頂天だった佐藤先生も「え!?」と突然の出来事に戸惑っていた。



――私は普通の悠太が好きなのに。



バカみたいなことでも一緒に笑ってくれる悠太が好きなの。

有名になんかならなくていい。

色んな人に知られる存在にならなくたっていい。

そばにいて欲しいだけなのに。


「ごめんなさい」と小さな声で謝ると、二人に背を向けて歩き出した。





< 58 / 350 >

この作品をシェア

pagetop