最後の夏-ここに君がいたこと-
私を見下ろしながら、陸は「ん」と言って本を差し出した。

枕から少し目を出して覗く。


「……何それ」


「うちの店の倉庫にあった」


「売りモンじゃん……」


「いいんだよ、古くて売れないから」


差し出された白い本には『やさしいミサンガの作り方』と書いてある。

そういえば大昔に流行っていた気がする。

知らない内にすたれて、最近では付けている人なんか見たこともない。


「これ……悠太に作ろ!」


「えー……古くない? もう流行ってないよ」


「志津はリバイバルって言葉を知らないの?」


「りば……いばる?」


「いいから、いいから! ほら起きて」


腕を引っ張られて、無理やり起こされた。

ほとんど1日中寝ていたせいで、後ろ髪がぴょんぴょん外にはねてる。

笑顔の陸が、「じゃーん」と色とりどりの刺繍糸を見せた。


「母ちゃんからもらってきた!」


そんな気分じゃないんだけど……と言いたかったけど、ひとりで居ても気は滅入るばかりだ。

「じゃあやってみる……?」


渋々刺繍糸を受け取った。

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