私に恋を教えてくれてありがとう【下】
それはつい葉の青さがかげり始めた頃のこと。

華子は朝から仕事もせずに最上階の4階、療養病棟のナースステーションに居た。


この病棟は全個室で、普通の療養病棟よりはるかにお高いそうだ。


大きな窓からは名前は知っていたが場所は定かではなかった、

よく看護師が口ぐちにしている名前の大型マーケットが見える。



よく晴れた日だ。

でもどうやら、華子にとってはとても晴れ晴れしくはなかった。


「佐藤さん、辞めたいっていうのは本当?」


今、丸テーブルを挟み華子の前に総看護師長、そしてその横にインターチェンジの様な頭の事務長が揃っている。


師長は眼鏡を光らせ華子に詰め寄る。


「あの件なら気にしなくていいのよ?
 
 実際彼女に動かれたのはこちらの不備だったのよ。

 ねぇ、事務長?」



「ええ、そうだよ。

 他の看護師から君が最近あの人と帰っているという報告は受けていたからね。

 こちらから動こうとしたらあの出しゃばり女めが!」

事務長は歯軋りをし、総師長はうんうんと頷いた。

どうやら二人は華子同様、滝瀬に好感を抱いてはいなく、

むしろ邪険にしているようだ。


総師長は言った。


「佐藤さん?

 あなたは辞めることないのよ?
 人のうわさも七十五日。

 特に女の間の興味本位の噂は本当不確かなものが多いでしょう?

 だれもこんなふわっとしたことで貴女を変な目で見やしないわよ?」


華子は小さく頷いたが、目線はテーブルの上で組んだ総師長の指を見つめていた。





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