私に恋を教えてくれてありがとう【下】
『もし裁判になっても

蓄えはしてあるから安心して。


あなたの気持ちが僕にあるなら

一緒に戦ってください……。


華子?



君だけです。



僕には……』


華子は下唇をきりっと噛んだ。


そして気づいた時

聞こえていたのはただの電子音だった。


「もやもや……する……」



もし裁判になったら私は負けるだろう。


そして多額の慰謝料を請求されるに違いない。



その時の為の蓄えか?




無理だ。




あの男は既にバツイチ。


今も慰謝料とやらをはらっているのではないだろうか。



牧田の金銭面ははっきりとは分からないが


車以外はなんともアットホームなパパななりだし、


白衣だっていつも萎びれていて


到底お金持ちには見えやしない。




華子は思った。



……この人の“お金の使い道”を。




憐れみ


失望




そして何とも複雑な想いが巡る。





華子の胸には確かに息をひきとったはずの

あの生き物の爪後が

なまなましく残っていたのだろう……。





酸素が上手く運ばれず

目の前がかすみ

またあの時と同じ

牧田に拾われた時のような五体重みを感じ


微かに遠く

誰かの声を感じた……。





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