夕凪の花嫁
夕凪が導かれた国に降り立つと、そこは廃墟だった。



荒れ果てた国を見、眉間に皺を寄せる。守人だからこそ、常人が感じられないわずかなものでも感じとってしまう。



それが幸か不幸かなど、もはや口にするまでもない。



「……血の臭いと死んだ風、か。守人がいなくなった国は不浄なものを誘き寄せる――琥珀なら、国を救えるかもしれないが……オレは、もう琥珀に何もさせたくない。鎮守の風、鎮魂の風、祓え」



扇を広げ唱えると、優しい翡翠の風が疾風の如くこの土地を駆け巡ってゆく。



曇っていた空から晴れ間が覗き、夕凪は胸を撫で下ろす。



「祓えるのは風と水を操れる守人だけで、それ以外は祓えないしな。……しかし、妙だ。オレの風が弱まってる」



神妙な面持ちのまま扇を畳む。思考を巡らせ思い当たる事がないわけでもないが、自分には確信がない。こう言った事は相方の草可に任せてしまうに限る。



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