白い鼓動灰色の微熱
彩世はクスクス笑った。

『何で紅茶を飲んだんだ』
 
自分で作っておきながら、心の中では叫んでいた。
 
いやでも、大丈夫だ。

清香は睡眠薬を飲んだだけだ。

それだけで死ぬわけじゃない。

清香はDVDをセットすると、テレビから離れて、体育すわりをし、画面を真剣に見詰めだした。 
 
よほど観たい映画だったのか。
 
それとも、テレビがつくと、そっちに魂を奪われる性質なのか。
 
どちらにしろ、清香は真剣に画面を見ながら、次第にこっくりこっくりし始めた。
 
頭が眠気に負けて垂れ下がるのを、必死で起こして画面を見る。
 
しばらく格闘しているようだった。
 
彩世は、清香が眠ってしまう前に、その場から自分を隔離しようと必死だった。

けれど、清香が眠気をセーブできないのと同じように、彩世の体も、自分のコントロール下にはなかった。

リビングから出て行こうとして、清香の後ろに立ったまま、体が動かない。



「助けて、彩人」
 

彩世は呟いていた。


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