白い鼓動灰色の微熱

自由ノタメニ

ただ、力が抜け切っている人間を運ぶのは大変なのだ。

すぐに体がグネリと手から零れ落ちようとする。彩世は何度も咲を抱きかかえなおしながら、廊下へ向かった。

廊下へ向かうドアは少し開けておいた。

それを、足で蹴りあけた。

ユニットバスまでの道が目の前に開けた。

玄関から見えないユニットバスは、前もってドアを全開にしてある。

前のときは、いつものクセで、ドアをきっちりと閉めまわしていたので、開けるのに手こずったのだ。

だから今回は抜かりなく、準備をしておいた。

廊下を歩き出したところで、咲の片足が腕から滑り落ちた。

ちっ。

彩世は心の中で舌打ちをした。

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