白い鼓動灰色の微熱
母が死んだのだ。
 
大好きだった母は、綺麗な手をした女性だった。
 
その手が焼かれてしまうことを恐れた彩世少年は、初めて、人の肌にナイフをつきたてた。
 
非力な彩世少年には、過酷な作業だった。
 
ナイフの刃はすべるように肌に飲み込まれたけれど、その先にあった骨には手こずらされたのだ。
 
ギザギザした刃先は、ゆっくりとしか、骨を切れなかった。
 
それも、彩世が子供だったからだ。
 
今も同じく輝く刃先は吸い込まれるように先の手首に沈んだ。
 
血が、噴出す。
 
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