【短編】あたしとふたご
でも取っ組み合いの喧嘩をしているうちに、ひぃ君の持っていた包丁が。
……のん君の指を切ってしまった。
あの時の真っ赤になった床を、今でも鮮明に覚えている。
そして。
「望!!!!」
あの時、倒れたのん君に駆け寄ったひぃ君の顔も。
1枚の絵のように……。
動いている全てが、あの時。
カメラで連写したように、1枚1枚止まって見えた。
倒れたのん君の指からの大量の血も。
駆け寄ったひぃ君の泣き顔も。
頭が真っ白になるって感覚も。
全てを覚えてる。
一生忘れる事もないって事も……。
分かってる。
のん君は指切断寸前の怪我で。
その日から。
あんなに取り合いの喧嘩をしていた2人は、何かを取り合って喧嘩をする事をしなくなった。
ひぃ君はのん君に怪我をさせてしまった事を悪く思っているのか。
喧嘩をしなくなった代わりに、ひぃ君が一歩引いてゆずる構図が出来上がっていた。
のん君はそれについて何も触れないけど。
ホントは気付いてるのかな?
ひぃ君が1歩引いてる事……。
聞きたいけど聞けない。
だって兄弟の話に、幼馴染ってだけのあたしが踏み込むのはどうかと思うから。
だからあたしはあの日から、2人にその事に関して何も触れていない。
触れちゃいけないって、幼いながらあの時察したから。