本当に愛おしい君の唇
第23章
     23
 治登と直美は連れ添って立ち上がり、食事代を清算して、ラウンジを出た。


 歩きながら、さっき新聞に載っていたことが妙に気になる。


 金兼原建設は熊川コンストラクションをいずれ傘下に収めるつもりなのだろう。


 株式をあれだけ取得し、筆頭株主になったということは、事実上相手の社を乗っ取ったに等しい。


 和弘は何を考えているのかまるで分からなかったのだし、治登も考えあぐねていた。


 特定の社に対し、株式の時間外取引などを使って、株を買い占めるのは簡単だ。


 そしてその株を元手に、相手方にM&A――いわゆる敵対的買収というやつだが――を仕掛けるのもたやすい。


 治登はそういった事例を知っていた。


 会社間で株を奪い合えば、当然ながら多額の株を買い取った方が株主総会で積極的な発言をできるようになる。


“これは危ないかも”


 治登はホテルの建物を出て、歩きながらそう思っていた。
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