本当に愛おしい君の唇
第8章
    8
 直美が羽織っていたコートを脱ぐと、治登が、


「君、今日も香水付けてるんだね?」


 と訊く。


「ええ。嗜みで」


「お仕事お疲れ様」


「治登さんも疲れたでしょう?」


「ああ、まあな。ただ、俺は定時に出勤すれば、夕方も午後六時には帰れるからね」


「あたしも普段は単なる一OLだから、昼間ちゃんと仕事すれば、夜は休むわ」


「今夜のワインの味もいいな」


「そうね。あたしもこれぐらいのマイルドな味が好みなの」


「君はワインの味が分かるのか?」


「うん、まあね。……さすがに、ソムリエみたいに詳しくはないけど」

< 40 / 171 >

この作品をシェア

pagetop