本当に愛おしい君の唇
第14章
     14
 その日の午後八時前になると、治登は気分がそわそわしてきた。


 新宿駅の東南口で直美と待ち合わせするからだ。


 二日後の朝の人事の発表を楽しみにしながら。


 年度末だったが、治登自身、なるだけ気を楽にしようとしていた。


 実際、古賀原や石松、西などのいわゆる要らない連中がこぞって出ていってくれると、助かるのである。


 まあ、前からリストラ予備軍として首を切る算段(さんだん)ではいたのだが……。


 ルーデルの本社が鉄壁の江戸城だとすれば、古賀原たちがいるべきなのは、墨俣一夜城(すのまたいちやじょう)ぐらいなものである。


 ボロで居心地の悪い場所だ。


 ちょうど昼過ぎに、治登は心の中で古賀原たちを笑いながら、豚肉がメインの日替わりを食べていた。


 合間にホットコーヒーを口にしながら、だ。


 無能な連中は一人として必要ない――、そう思っていたのだし。
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