華の咲く場所

次の日、目が覚めると、紅藤様はいなくなっていて・・・その代わり、茶英がせわしなく動いていた。

というか、あまりに茶英がうるさくするのでそれで起きた、というのが正しい。

人が寝ているときに勝手に部屋に入るって言うのは、どういう神経をしているのだろうか・・・まぁ確かにここには女将の目も女たちの目も届きはしないけれど。

「茶英、どうしたというの?何かあったの?」

眠い目をこすりながら言う私に茶英は冷たく言った。

「さぁ、お荷物をまとめてください。」

「・・・はぁ?」

茶英はああ忙しい、と言外に表現するように、私と話している最中もずっと動き回っている。

「ちょっとまって、私は、一位の座から降ろされたの?」

一位の座には特に何も執着はないから・・・部屋が狭くなるのは嫌だけれど、その位から降ろされることは別にかまわないが、でも、紅藤様は私を店で、街で一番の女にしてやるといったのだ。

あの方が約束をたがえるはずはない、ということは、もし違えたとしたら、私は―――。

考えたくないことが頭を占拠しながら問うと、茶英は謎かけのような答えを出してきた。

「確かに、一位の座から降ろされたと言えばそうですね。」

私の気持ちをまるきり無視したその反応に、無性に腹立ちを覚えた―――やっぱり茶英は、性格が悪い!

「なぜ?」

「紅藤様のお言いつけでして。」

その言葉を聞いた瞬間、目の前が真っ暗になって、ばらばらと何かが崩れていくような・・・そんな気がした。

やはり。

やはり私は紅藤様に捨てられたのだ。

本気に思っていたのは、私だけだったのだ!

新しい幸せを、人生を歩んでいけるのだと思ったのは、人生に疲れた私が見た、甘えた勘違いだったのだ。

絶望と一言で言うには重すぎる現実に打ちひしがれていると、そんな私を見て茶英が面白そうに言った。



「要するに、あなたは紅藤様に身受けされた、ということですよ。」



・・・みうけ、とは、身受けとは、女を、大枚をはたいて、買う、こと、で・・・。

茶英に言われた言葉を機械的に考えていると、なんだか自分がひどく馬鹿らしいことを考えていることに気がついた。

「は、身受け?」



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