歌って聞かせてよ。
それから少しづつ、光輝君は歌が歌えなくなっていった。


ある日。




「桃…ごめんな。歌ってやれなく、ゴホッ!…。」




「いいよ。無理しないで。私、光輝君のそばにいるだけて幸せだから。」



光輝君は話す時にまで咳き込むようになってきた。



不安にさせたくなくて、笑う私。


光輝君はそんな私を見て、照れくさそうにする。



「…大げさすぎ。」



「だって本当のことだもーん。」




光輝君を笑わせたい。


病気の事考えるくらいなら、歌や家族、友達とか



私の事を考えてよ…。




この日は先生に診断してもらう日だった。



「桃っ。俺、行ってくんな。」



「うん。ここで待ってるね。」





そして光輝君のいなくなったベッドの布団にくるまる。




ふわりと包み込んだ布団からは光輝君の匂いがした。


木のままじゃ味わえなかった幸せ。






「私…このままここから出られなくなってもいいや。」





光輝君に抱き締めてもらってるみたいで幸せなの。





ふと枕元を見ると、紙切れが置いてあった。



「?…これ…。」




よく見ると『診察の時に持っていってね。』と看護師さんが置いていったメモ書きだった。





「大切なものなんじゃないのかな…。」






そう思った私は診察室までそのメモを持っていく事にした。
< 34 / 63 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop