愚者
昼休みのチャイムが教室に響き渡ると、葵はふら付く足取りでトイレへと行く為に席を立つ。四時間目迄授業を消化したが、相変らず好奇の視線が収まる事は無く、その精神的な圧力に葵は窓から飛び降りたい衝動に何度も駆られるが、その度に小夜子が傍に居ると心の中で唱えて踏み止まる。危うい兆候だと自分でも思う。だが戦う道を選んだのも自分なのだから如何する事も出来無い。両親に心配をさせたく無いと云う一種の親孝行が現在の追い詰められた精神状態の葵を作っているが、本人はもうそんな事を理解出来る程に安定した状態では無い。トイレの個室の中。気分は最低の侭に洋式便所の蓋を閉じて座り込む。この場所だけが学校の中で一番落ち着く場所に成っている。涙等はとっくに枯れ果てたと思っていても自然と溢れては零れ落ちる。何時迄この状態が続くのか分からない限りは本当に地獄と云う以外にはない。吐き気を覚えても吐瀉物が出る事も無く気持の持って行く場所が見付から無い。あるとすれば小夜子が通っていた喫茶店のマスターの時雨だけだ。だが、これ以上迷惑を掛けたく無いと云う思いの方が強く働く。複雑な心境の侭で葵はトイレから出て教室に戻り、鞄から弁当を取り出して教室で食べる事にした。小夜子が居ない屋上に行っても寂しく成るだけだ。誰も居ない屋上で小夜子の事を考えるのは辛過ぎる。どの道この学校では心の落ち着く場所等は無い。それなら何処で食べても同じ事だと思い、弁当の蓋を開けて葵は絶句する。