愚者
私は恵が妹だと云う事実と葵の現状を知っている。簡単に云えば身内だ。だが、予備情報を持たない恵からすれば、私達は全くの他人で、この選択肢自体が相当に精神的な負担に成る。信用が出来るか如何か。娘を保護していると云う事実をどの様に受け止めるかがポイントに成る。
 時間だけが刻々と過ぎる。恵は必死に現状を受け止め、如何するべきか逡巡しているのが空気を介して伝わって来る。通常の認識では考えられない事態なのだから当然の事だ。だが、決断を下すのは母親で在る恵がしなければ成らない。私に出来る事は、恵の背中を後押しする事位だ。
「あく迄も客観的な意見を云わして貰うよ」
「はい」
「小夜子君はこの店の常連だ。その小夜子君が連れて来たのが縁で、双方から色々な相談を受けた」
「双方、ですか?」
「貴女と葵君の両方だ。その上で私が出来る事は互いに云い出す切欠が出来る様に出来得る限りの苦言はした積りだ。その辺りは貴女に私が苦言したのと大差は無いと思って貰って構わない」
「受け止めきれませんでした……」
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