ドラゴン・テイル

回想



 レナが初めてウルを見たのは昨年の夏。

 町にある唯一の魔術師専門の別校舎内。
 この魔術師専門校は、町だけでなく、国中でも有名な名門校だ。沢山の優秀な魔術師を排出しており、各地方から沢山の人が通い、あるいは研修に訪れていた。
 竜の加護を受ける町として名が広まってからは、観光を兼ねて訪れる人が急激に増え、町はどんどん発展していった。

 そんな三階建ての本校舎の一角に立てられている一際大きな二階建ての建物、主に実演練習に使われる別校舎の中で、一人の青年が魔法の練習をしていた。

 夏の照りつける太陽の日差しを浴びているにも関わらず、その建物の中だけは凍えるほど寒かったのをレナは鮮明に覚えている。

 精霊士の講義を聞きに来ていたレナは、この強烈な寒さの出どころを見ようと校舎の扉を少しだけ開けた。凍り付きそうな程の冷気が吹き荒る。

「なぁウル。もうそろそろ止めにしねぇ? マジ寒い……。こんな夏真っ盛りに防寒具着て凍えるなんて思いもしなかったぞ」

 少し震えているようだったが、聞き覚えのある男の声だった。

 ─あ、あの人は……

 良く、同期のキスティンと話している人だ。確か、幼なじみ……。
 名前は知らない。

 彼は、校舎に備えてある防寒具を身にまとってカタカタ震えていた。

 レナは彼の向く先を辿って視線を移す。


 ─……っ!


 一瞬、ドキッとした。

 この吹き荒れる冷気の中、額に少し汗を滲ませ肩で息をしている青年。
 至る所の壁や床が白く霜を張っている中で、彼の鳶色の髪が鮮やかに見えた。

 校舎内全体を霜浸しにするほどの力を持つものはそうそういない。
 だが、レナはその力の大きさに感嘆する余裕がない程、ウルの姿に惹かれていた。

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