アリィ


それから間もなくやって来たのは、学校の教頭と麻生先生だった。


こちらの方々も、病室へお通しすることなくお帰りいただいた。


麻生先生は傷ついていると思う。


でも、謝る気持ちさえ湧いてこない。


あの日に私のすべては終わってしまったも同然で、今この日々は、成虫が土へもぐり幼虫に返って眠り続けているようなもの。


私はふたたび地上を、世間を知ることはないし、もちろん学校へ戻ることもない。


だから、もう何をしても無駄なのだ。




そうやって追い返しているのに、麻生先生はちょくちょく病院に顔を出すらしい。


「本当にお会いしなくていいのか?」


父は何度も説得してくるけれど、私の気持ちは変わらない。


まだあの世界、あの過去につながっていると思うと、それこそ死んでしまいたくなる。




忘れたい。


全部、全部、忘れてしまいたい。




「そうね、今はすべてを忘れて心も体も休まなきゃいけないときなのよ」


と仏様のような顔で笑うこの女性は、この病院のカウンセラー。


週に一度やってきて、親しげに話して、私の言葉を引き出そうとしてくる。


この時間は苦痛だ。


私が人間的な生活を取り戻すために、この『治療』が必要不可欠なのは分かる。


でも私は、どんな未来も望んでいないのだ。




壊れた体が人の手を加えられて元に戻されていく。


ただ、それだけの毎日。




< 205 / 218 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop