君が、イチバン。

午後9時を過ぎる頃に客足が増えてバタバタし始めた。


「オーダー」

四宮君が内線をうけて、できんの、あんた、勿論できるよね?みたいな顔でこっちを見てくる。ねえ、本当にシャイってこんなんだっけ?小一時間程問い詰めたい。

フロントのパソコンで注文を打ち込んで厨房のプリンタに届く仕組みになっているので私はフロントの裏の厨房に行く。

届いていたオーダー用紙はふんどしみたいに伸びている。なんだイジメか。

まあ数が多いけど、出来ない訳じゃないし!流れ作業は慣れてるし!…って本当はテキパキこなしてあの生意気美少年を見返したかったのだ。見てろよ。…見てないがな!


なにがそうせきたてたのか、自分でも神がかって手際良く調理して、出来上がったものから一気に運んでを繰り返す。オーダーは残りパスタだけだ。

調理台の前で飾り付けをする頃、後ろから物音がして、振り向けば四宮君。


「…もしかしてそれで終わりですか?」

手伝いに来たのか四宮君は少し驚いてるらしい。すごいだろ、と胸を張りたくなったけど、「一応」なんてさらりと言って涼しい顔をしてみる。


「へぇ?手際良いんですね」


四宮君は特にいいがかりをつけるでもなく普通に感心してくれた。


「はあ。」

なんか意外だ。気が抜けて魂が出たみたいな声が出た。



「…変な声。」


あ、笑った。


笑うと可愛いじゃん。笑うと八重歯が見える、案外子供みたいな笑顔にイメージが崩れる。

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