君が、イチバン。

チョコレートケーキはお早めに

◆◆◆

25日もそこそこな忙しさであっという間にクリスマスは終わった。
頬の赤みもとれて、普段通りだ。よかったよかった。



「お疲れ様」


後ろから聞こえた艶のある声の先には、


「冴草さん?」


冴草さんは着物姿がよく似合っていて、いかにもスナックのママ、という雰囲気よりもどこか良い家の奥様みたいですごく上品に見える。


「上も閉めたんですか?」


「ええ、今年でクリスマスも最後だから、贔屓にしてくれたお客様が残って下さったんだけどね」


三階のバーは年が明けてすぐ閉めるらしい。新参者の私は知らなかったから急な事で驚いたけど、前から決めていた事だと言っていた。


「…寂しくなりますね」

あまり接点はなかったけれど、それでもないのとあるのじゃ全く違う。

「そうねぇ…、だけど仕方ないわ」

冴草さんは色気のある微笑みを向けた。事情は詳しく知らない。だけど、ゆかりさんが男と女の事情だと言っていたからそうゆう事なんだろう。暫くはLaiのバーは空き店舗ということになる。

「冴草さん達はどうするんですか?」

「秋吉さんは独立して店を出すそうよ。…私は、そうね今更就職活動も出来ないし大人しく隠居するわ」


艶やかに笑う冴草さんはどことなく吹っ切れている様に見えて私も自然に微笑んだ。


「ここってね、訳ありばかりの学校だったような気がするの。あ、若咲さんは違うかしら?違っていたらごめんなさいね。皆、夢の途中だったり夢を諦めてたり、家庭の事情だったり色恋沙汰の果てだったり。それを総括する先生の一条君と、見守る校長の向坂君。お客様との触れ合いだって勿論だけど、1足す1が2にならない事もあると理解する時間を緩やかにくれた気がするのよ」


遠い目をする冴草さんの口調は優しくて穏やかで、経験の深さを感じて、ああそうだなと思う自分がいる。

ここで働き出してから、鰐渕さんの事を考える事もなかったし、仕事を嫌だとも思わなかった。まだ、私は卒業出来そうにはないけど。


「私で良かったら相談に乗るわよ」


艶やかに笑った冴草さんに、私もゆっくり「ありがとうございます」と頭を下げた。



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