君が、イチバン。

「何のご用でしたか?」

ゆかりさんが帰って、一呼吸置いてから一条さんを見上げる。

「困ってたみたいでしたから」

一条さんは相変わらず穏やかだ。

「あ、ありがとうございます」

一条さんにはお礼をいってばかりだな。先生、ってイメージ似合う。

「いえ。若咲さんはもう少し甘えてもいいんですよ。自分一人で解決できる事なんて多くありません」

この間の、ゆかりちゃんとのどんぱちの事を言っているのか、それとも鰐渕さんに会った時の動揺なのか、分からない。
だけど、心配してくれているという事は分かる。優しい、人。

「気丈で、しっかりしているように見えますが、後先考えない楽観的な所が羨ましいですね。僕には考えられませんから」

毒舌は健在だがな!

「それから用事はあるんです」

若干折れそうな心を押し上げて「何でしょう」と返せば、シルバーフレームの奥の瞳が満足気に細まる。

「専門誌でここが取り上げられる事になりました。若咲さんにも撮影協力してもらいます」

「撮影協力?何するんですか?」

「モデルをしてください」

無理に決まっている。

「無理に決まっている。」

ああ、また口に出ちゃった。

「ゆかりさんで良いのでは?私まだ勤めて浅いですし」

彼女なら喜んで引き受けてくれそうだし。

「勿論、ゆかりさんにも協力してもらいます。それから若咲さんいつまでも新人気分でいてもらっては困りますよ」

その通りだなら言い返せない。くそう。

「いつなんですか?」

「明日、迎えに行きます」

いつかどこかで同じ人から同じ台詞を聞いたなー、とぼんやり思った。



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