魔念村殺人事件
「会社は辞めたよ。今日からここで助手をさせてくれ」


 深く頭を下げる春樹に面食らいながらも陸は答えた。


「ど、どうしたんだよ急に? 会社辞めたって……。給料良かったんだろ? ここで働くのは構わないけれど、会社と同じ給料払えないぞ?」


「分かってるよ。金のために云ってるんじゃない。やりたいことが見つかったんだ。俺は少しでも困っている人の力になりたい。犯罪に手を染めようとしている者がいるのならばそれを止めたいし、会社員やっていたら、そういう人達を救えないんだ。今回のことで大事な家族を……美紀達を失った俺は……、俺にはそれしか思いつかないんだよ。頼む! 陸の助手にしてくれ」


 更に深く頭を下げた春樹はテーブルに額がついている。

 そんな春樹を見ながら、陸は一年以上前に起きたあの事件で自分が変わったことや、探偵になった時のことを思い出していた。

 俺と春樹は似ているとは思っていたけれど、ここまで似るとは。

 そんなことを考えていると、陸は無償に可笑しくなり声を出して笑ったのである。

 その笑い声に驚いて、春樹は慌てて顔を上げると、今度は陸が精神的にどうかしたのではないかと不安になった様子だった。

 それもまた、二人は似ていたのである。

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