先生

えっ……



なんで…居るの??



私は腫れた目を隠す様に、下を向きながら脇をすり抜けて行った。


「新庄……」


グイッと引かれた左手。

振りほどこうとしたのに、上手く力が入らないよ。


「…離して」


先生、離してくれなきゃ先生を苦しめるんだよ?

なのに

「1人で抱え込むなよ」

って言って引き寄せられる左手。



先生はズルい。



追いかけると逃げるくせに、離れると引き戻すんだ。


でも……


それでも、嫌いになれない。


私は弱者。


「…バイト…遅れちゃう」


声を絞り出して出てきた言葉。


本当はバイトなんてどうでも良いんだ。


私は床とにらめっこしながら、ふりほどけない左手と格闘していた。


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