Love Step

バッティング

峻はクラブのカウンターに座り、バーボンを煽(あお)った。


一気に飲み干すと胃の中がカッと熱くなる。


隣に座っている梨沙はジンベースのライムが入ったギムレットを少しずつ飲んでいた。


「どうしたんですかぁ~?今日はなんか変ですねぇ~?」


もう一杯のバーボンをバーテンに頼んだ峻に小首を傾げて言う。


「あの~ あたしの事、梨沙って呼び捨てでかまわないので峻くんって呼んでも良いですかぁ?」


峻くんと梨沙が呼ぶとグラスを持っていた手がピクッと動く。


杏梨に「峻くん」と呼ばれていた事を思い出したのだ。


一瞬間が空いた後……


「かまわないよ」


「わあぃ 梨沙 うれし~」


甘えるように峻の腕に梨沙の腕が絡みつく。


特にその腕を外そうとも思わなかった。


峻は杏梨の事を考えていたから。



「ふざけるな ガキンチョ」


「峻くん……?」


ハッと我に返ると梨沙が顔を覗き込んでいた。


「なんかあたしに怒っていますかぁ?」


「え?」


「だって、ふざけるなって……」


「あ、いや 梨沙のことじゃないよ」


「良かったぁ~」


嬉しそうに笑みを浮かべる梨沙。


ピンクのグロスに塗られた唇に峻は優しいとは言えないキスをしていた。



唇を離すと梨沙は指を唇に当ててぼうっとしていた。


「峻……くん……」


「出よう」


峻は立ち上がると会計を済ませて梨沙の手を引っ張った。


「峻くん?どこへいくの?」


強引に手を引かれるまま急ぎ足で歩く。


質問に答えてくれない峻だったが、梨沙はそれでもまだ一緒に入られるという気持ちで嬉しかった。




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