Love Step
「ごめん、中身がまさかバッティングするとは思ってもみなかったよ」


一段目の重箱を持ったまま動かない杏梨からそれを取り上げる。


重ねて蓋をするとキッチンへ持っていこうとした。


「どうして持っていくの?びっくりしただけだよ す、すごい偶然だったから」


「杏梨……」


「煮物おいしそうだったよ?」


雪哉の手から再び重箱を取り上げてテーブルの上に置いた。


「そんなに食べられないだろう?」


「わたしのは明日、食べようよ」


「いや、彩の料理は悪いけど捨てよう」


「ゆきちゃん!そんなのもったいないよっ!」


わたし……なんか、意地になっちゃってる……?



「いいんだ 俺は杏梨の方が食べたい」



雪哉は重箱をキッチンに片付けると戻ってきた。



その間、杏梨は複雑な気持ちで眉根を寄せていた。


「手を洗ってくるよ」


杏梨の頭をポンポンと優しく叩くといなくなった。


ゆきちゃんのバカっ……だったら持ってこなかったら良かったのに……。



* * * * * *



雪哉は洗面所に入ると大きなため息を吐いた。


先に彩を帰せば良かった……。


一緒に店を出たせいで重箱を持って帰るしかなかったのだ。


せめて車の中に置いておくべきだったな……。

いや、受け取れないというべきだった。


リビングに戻ると杏梨は温めたお吸い物を運んでいた。


「ゆきちゃん、出来たよ」


何事もなかったように雪哉に座るように勧める。


へそを曲げられてしまうかと思っていた雪哉はホッとしてイスに座った。




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