Love Step
雪哉は杏梨に抱きつく姉をドアの所で見ていたが、杏梨が見た時にはいなくなっていた。


「昨夜、雪哉から電話をもらって驚いたわ もうバイクなんて乗っちゃダメよ?」


「ゆずるさん……」


ゆずるの言葉に呆気に取られる杏梨だ。


「でも……バイクがないと学校へ行けないし……」


「雪哉に送らせなさいな 都合の悪い日はタクシーで行けばいいわ」



むちゃくちゃな事を言っているのをゆずるさんは分かっているのだろうか?


杏梨はきょとんとした顔をゆずるに向けた。


「無、無理です 無理に決まってる ゆきちゃんは忙しいし、それにタクシーで通学だなんて」


大きくかぶりを振るとゆずるが笑う。


「それくらいで雪哉の貯金が無くなる訳がないんだからいいのよ ね?雪哉」


「そうだな その案がベストだと思うよ」


いつの間にか戻って来ていた雪哉が満足げに答えた。



冬木家の人たち、金銭感覚がおかしいよ……。


高校生がタクシーで通学するなんて常識に外れている。



杏梨はゆずるの作ってくれた朝食を食べながら考えていた。


「そうだ、杏梨 悪かったけどバイクは廃車にしたよ 転倒した時に壊れたらしい」


雪哉が思い出したように言う。




「本当に……?」


あれ位の転倒で壊れるだろうか……。


「ああ 直すのなら新車を買った方が良いと言われたよ」


本当にそうなら仕方ない。



「そうだ!ママに話してないよね?」


「話したと言ったら?」


「……怒る」


「そうだね 話してはいない だけど最悪な電話をしなくてはならなかったかもしれないんだ 心配をかけたくなかったら言う事を聞いて欲しい」



真剣な眼差しで見つめられて杏梨は目をそらす。


「杏梨?」


「……う……ん」


杏梨は渋々返事をした。


「さあ、杏梨ちゃん たくさん食べて」


ゆずるが杏梨の手にクロワッサンを乗せた。


食事の後片付けが済んだゆずるは慌ただしく帰って行った。





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