サクラ

 もう何度その手紙を読み返しただろうか。
 普通の者が読めば、ごく普通に己の犯した罪を吐露した告白文でしかないであろう。




 ある日、番組前に自分のデスクで読むとは無しに梶谷の手紙を広げていた。


「浮かない顔は似合わないぞ」

 大越がデスクに置かれた手紙に一瞥をくれ、

「悪い癖だな」

 と言った。

「どういう意味よ」

 少し苛立ち気味に千晶は言葉を返した。

「ちぃは、他人の心に入り込もうとし過ぎるんだ。
 で、自分の方が壊れて行く」

「そう見えるの?」

 千晶の返って来た言葉に、大越は意外だなという表情をした。

 大越の知っている千晶は、こういう場合、必ず反発して来た。

「ねえダイさん、わたしって、そんなふうに見られてるの?」

「そこが良い所でもあるし、欠点でもある。お節介とは違うんだが、ちぃは相手の痛みや感情を判ろうとし過ぎるんだ。
 人の心の内なんて、そうそう他人が理解出来る程簡単には出来ていないもんさ」

「そうかもね……」

「おいおい、あんまり聞き分けの良すぎる君も、らしくないぜ」

「じゃあどっちが良いのよ。ダイさんこそ、わたしの気持ちにこうやって入って来たのなら、ちゃんと最後迄答えてよ」

「だな。これは俺の方が悪かったかも。じゃあ、平成の無責任男と局内で呼ばれてる俺からのアドバイスだ。
 深く考えるな。お前は、ラジオのパーソナリティであって、それ以外の何者でも無いんだ。銀座の母になるにはまだ若過ぎる」


 冗談めかした軽い口調で言った大越だったが、千晶の胸には、確かな言葉として受け止められた。

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