サクラ

初冬


「この前の特番、そこそこ評判良かったぞ」

「ありがとう、でもダイさん、本当は違うんでしょ?」

 大越が先に褒め言葉を口にする時は、大体がその正反対の事が多い。

 何年も一緒に番組をやってると、ぴんと来る。

 次の言葉は、あそこをこうすればもっと良かったとか、ニーズに合ってなかったとかが出て来る筈だ。

 千晶は聞き慣れた言葉が、大越から発せられるのを待った。

 判り切ってはいても、相手の言いたい事を待つだけの分別が、最近はついて来たようだ。

「俺個人は、ああいうの嫌いじゃない。ただ、もうちょっと柔らかくていうか、まあ、これは他の人間の意見だから。それでなんだが、今度のピアフの企画な…もう少し手直しを、て……」

「上がって事?」

「まあ、言ってみればそういう事なんだが」

 もって回ったような言い方だが、番組の企画に横槍が入った事実に変わりはない。

「どの部分を手直ししろって言ってるの?」

「それがだな…アーティスト……」

「何それ?ピアフをやるって一旦通ったものを変えろってどういう事よ」

 強い口調で詰め寄る千晶に、大越はたじろいで後ずさりした。



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