サクラ

「千晶」

 いきなり名前で呼ばれ、千晶は少しビックリした。大越がきちんと名前で呼ぶ事など、滅多に無いからだ。

「急に改まってどうしたのよ」

「お前、本当はもっと話したい事がいっぱいあるじゃねえのか?吐き出したい事が。」

「……。」

「だから話し相手が必要だったんだろ?」

「結構鋭いね」

「お前の事なら大概はお見通しさ。聞くだけなら、幾らでも付き合うぞ」

「まあ、だからダイさん誘ったんだけどね。ダイさんは余分な意見とか押し付けないから」

 銚子の空くペースがほんの少しだけ早くなった。

 千晶は、梶谷から来た手紙をバックから出し、大越に見せた。

 そして、その返事を書いた事と、今回流れた企画を梶谷と約束した事も。

「わたしは、梶谷って人の弟さんを想う気持ちに応えたかったの。前にダイさんはわたしに言ったじゃない、お前の仕事は何だって。自分でも余り判ってなかったところがあったから、はっきり言われてドキッてしたわ。それでね、わたしなりにいろいろ答えを探したの。その時、わたしなりに浮かんだ答えは、ラジオを通して様々なものを伝える人…でもね、それは、100点の答えじゃなかったって、この手紙で気付いたの。ラジオから流れるわたしの声を自分と社会を繋ぐ糸だって思ってくれる人がいるのよ。
 いつ番組を飛ばされてもおかしくない、たかが局アナの番組に……。」

 大越は何も答えず、ただ千晶の話を聞いていた。



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