★あいつは教育係☆
「じゃあ、頑張ってね?」
開店の準備があるらしく、雅哉様は裏に戻って行った。

......頑張ってね......か。優しいなぁ。流石私の王子様!

ブニッ。

「!!!」
右頬に激痛がはしる。
みると、信次が私の頬を思いっきり抓っていた。

「おい......」
あっ。初めて声聞いたな。低音で落ち着いた声。

「馬鹿はこっち。」
ん?馬鹿?
って、私の事?
確かに馬鹿なのは自覚してるけど、いちいちあんたに言われたくないっつーの!


狭い一室で、私に信次は一冊のノートを手渡した。

「これ何?」
「ここの店のメニューだ。とりあえず、明日までに全て覚えろ。テストするから。」

はっ?たったの一日で?
これ全部?

「流石に一日では無理なんじゃないでしょうか?」
愛想笑いをしながら尋ねると

「じゃあ、辞めれば?」

......辞めれば!?

「ちょっと!何で、そこまで言われないといけないんですか?」
バイトに入ったばかりだから、大人しくしてようと思っていたけど、我慢の限界!

「お前さ、雅哉さんの事好きだろ?」

......バレてる。

「雅哉さんがいたから、このバイトに来たんだろ?」
相原信次が近寄って来る。

「それだけの理由だったんだろ?」

「......」

......逃げられない。
信次はどんどん近寄って来て。
顔を近付けて来て......

キスされる!?

「嫌っ!」
私は信次を押し退けようとした。
でも、信次の体はびくとも動かないで......

私の耳に唇を近付け

「俺、お前の事嫌い。」
と囁いて、部屋を出ていった。

私は恐怖とキスされなかった安心感で、その場で泣き崩れた。

「っ......ぐすっ......」

相原信次。
本当最低な奴。

でも、負けない!
辞めてなんかやらないんだから!

「私だって、あんたの事なんか大嫌いだよ!」
涙を拭ってそう叫び、ノートを持って、部屋を出て行った。
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