ロンリー・ハート《この恋が禁断に変わるとき…》【完】

「うん。何?」

「どうしてそんなに、私に親切にしてくれるの?
どこの誰だか分からないのに
ここに住んでいいなんて言ったの?」


見つめ合う2人の瞳
お互いの胸の内を探り合うみたいに
逸らされることなく
静かに時が流れる…


「君の生い立ちを、聞いたから…」

「私の、生い立ち?」

「小さい頃、事故で両親を亡くしたって言っただろ?
僕もね、親を知らないんだ…」

「えっ…」

「みわちゃんは、親の顔を覚えてる?」

「あ、うん。
パパとママが事故に遭ったのは
私が6歳の時だから…」

「6歳?」

「小学1年の時だった」

「そう…」


黒木さんは、また暫く押し黙り
眉間にシワを寄せた。


「僕は、産まれた時から親が居なかった。
生後数日で捨てられたんだ」

「…うそ」

「本当だよ」


寂しそうに笑う黒木さん。


「公園のベンチの上に置き去りにされてて
施設に引き取られたんだ。
僕の名前…
名字の黒木は、捨てられてた公園の名前。

下の名前は
その日、とても綺麗な満月の夜だったそうでね…
それで"満"って書いて"みつる"だそうだよ。

単純な名前だろ?
親だったら、悩んで色々考えて付けてくれるんだろうけど
僕の場合は
適当にって感じだよな…」

「黒木さん…」


私がプレゼントした
ニットのセーターを
丁寧にたたみながら
黒木さんは、淡々と話す。


そんな彼を見て
私は少なからずショックを受けていたんだ。


両親を失い
1人で生きてきたつもりでいた私。
誰よりも
自分が一番不幸だと思ってきた私。


でも、それは大きな間違いだった…


私なんかより
ずっと、辛く寂しい思いをしてきた人が
今、私の目の前に居る。


親の顔も知らず
本当に1人で生きてきた人が…


「黒木さん、ごめんなさい…
イヤなこと思い出させちゃって…私…」

「いいんだよ。
みわちゃんのこと聞いて
自分のことは黙ってるなんて、卑怯だからね」




…それは
自分でも、無意識の行動だった…


「みわ…ちゃん?」

「黒木さん…」








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