ダンデライオン~春、キミに恋をする~


いまだに雨はやむ気配がない。

慌てて屋台を閉めているおじさん達を見て、きっと今日のお祭りはこれで中止になってしまうんだろうなと思った。


響は不意に、巾着を握っていたあたしの手を掴んだ。



「……響?」

「行こう。このままこーしてても仕方ないし」

「い、行く?」




突然のことに、ポカンと呆気に取られたまま響に手を引かれて、雨の中一歩踏み出した。

来た道を引き返しながら、人通りがほとんどなくなった商店街をすり抜ける。

両側の笹の葉が、雨に濡れて寂しそうにうな垂れていた。




「雨、酷くなってるな……バス停までまだあるし……」

「……」



なにやら呟いていた響は足をゆるめると、とうとう立ち止まってしまった。



「ここから歩くなら、俺んちの方が近いんだけど……。椎菜、どうする?」

「……え?」


そう言って、あたしに視線を落とした響はさらに雨を落とす空を見上げた。


え、え……えぇ?

ちょ、ちょっと待って?
ど、どうするって……どういうこと!?



「……」



何も言えず黙っていると、響があたしを見下ろしたのがわかった。



「とにかく行こ。 小降りになったらちゃんと送ってくから」

「えと……」

「歩ける?」

「あ、歩けるけど……」



フリーズしていく思考回路のなか、なんとか聞かれたことに答える。

そして。

響はあたしの手元から巾着と彦星人形を抜き取ると、眩しいほどの笑顔で振り返った。




「んじゃ、決まり」




そう言って、さっきよりもギュッと握られた手。
少しだけ小走りで駆け抜ける路地。

水を跳ねる、ふたつの足音が響く。




…………え。


ええええええ!!!!

響の家ぇええ?






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