ダンデライオン~春、キミに恋をする~


「噂をすれば……なんとやら。椎菜」



え?


ニヤニヤ顔のお母さんは、もったいぶってゆっくりと玄関扉を開けた。




「……」



え、うそ……どうして……。



そこには。
息を切らせた、響がいた。


あたしと目が合って、苦しそうに上下していた肩が一際大きく揺れた。

安心したような、そんな顔に胸がドキンって跳ねた。


喉の奥がギュって苦しくなって
せっかく収まってくれてたものが、またあふれ出しそうになって慌ててパッと俯いた。

無意識にスカートのすそを握りしめていたその手に、さらに力を込める。


何を言えばいい?
さっきはごめん。ってまずは言う?

それとも……。
とにかくなにか……。


「……あ……」

「響?」




でも。
先に声を上げたのは、あたしじゃなくて。


「なんでおまえがここに……」


彼の傍へ行こうとしたあたしより先に、イツキ先生がヨロヨロと歩み寄った。



え?



まるでキツネにつままれたような顔をしているイツキ先生。

そして、そんな先生を見つめる響が、小さく呟いた。




「……アニキ……」



あ、あにき?

今、確かに響の口から兄貴って聞こえたよね?


……。






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