空中少年(Gnawing at this heart)
音を立てないように歩み寄って、小坂の寝顔を覗き込んだ瞬間、心臓がずくんと動いた。

顔が格好良かったからとか、女の子らしいときめきとは明らかに違った。



私は悟ったのだ。

あたたかい太陽の下、誰にも知られることなく、ひとりきりで。

人間以外の生き物しか登場しないような夢を見ながら、ただ眠る。

四肢を投げ出し、無条件の安心感に抱かれて、ひとり。



これが、私の望んでいたことだと悟った。

これが屋上の鍵を手放さなかった理由であり、目の前で今、一人の少年がそれを実践している。


とてつもなく羨ましくなり、その日、私は午後の授業に出ることができなかった。

まだ名前も知らなかった小坂の眠る姿から目を放すことができず、そして小坂が長い時間、目を覚まさなかったからだ。



終業のチャイムを見計らったように彼はぱっちりと瞼を上げた。

目が覚めたとき、傍らに膝を抱えて座り込んで自分を見つめる女がいたら、普通は驚くだろうし気色悪いに違いない。

しかし小坂の反応は普通ではなかった。


「聞いて。いい夢を見たんだ」


子供が母親に向けるような笑顔を浮かべて、小坂は私に言った。
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