空中少年(Gnawing at this heart)

造形(the forest)

暮れかけた淡い光が窓から差し込んでいる。

壁に掛かった時計の針が進むのが、ずいぶん遅く感じた。


中里は、開いたファイルに忙しくペンを走らせている。

図書室にはたいていいつも、二人の図書委員が当番として滞在するはずなのに、今は中里だけだ。

もう一人の当番の三年生が、体調不良で帰ってしまったらしい。

一人で仕事をこなす羽目になった中里は気の毒だけれど、おかげで私は他人を気にせずに中里を眺めることができた。



中里は小説家になりたいのだという。

これは誰もが知っている。

地域で行われたコンクールの最優秀賞をとり、先月、朝礼で校長からも表彰を受けた。

本人はほとんど誰にも明かしたことのない夢だったらしく、同級生から祝いのコメントを貰っても、微笑んでお礼を返すだけだった。

それ以上の追及を許さない類の笑顔と「ありがとう」は、中里の必殺技だったりする。


そんなわけだから、私もその件に関しては一言お祝いを言っただけで、話題に出すようなことはなかった。

中里の書いたものを読んでみたいとは思うけれど、正直、難しい話ばかり書いていそうだという気もした。
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