雪がとけたら



……………


みずみずしい緑が一面に広がっていた。

荒れ狂うあの日の光景とは違い、落ち着いた静かな中庭。





…出入口に腰かける、あいつがそれを見つめていた。



ゆっくりと非常階段を降りる。

上がっていた息も、少しずつおさまっていた。




カタンという音に、あいつははっとした様に顔を上げる。


…桜の木々を挟んで、二人の目があった。



何も言わないあいつ。

僕は一歩一歩その場に近付いていく。



あいつの目の前で足を止めた。

座ったまま、僕を見上げる。

僕もまた、立ったままあいつを見下ろしていた。







…静かな時間。


言葉なんて初めから存在しない様な空間。




それでも僕は、口を開いた。









「みつけた…」









…口を開きかけたあいつの手を、僕は勢いよく取った。

驚くあいつなんかお構い無しに、僕は手を引いて廊下を駆け出す。

「ちょ…っ」

振りり払おうとする手を握りしめ、無我夢中で足を速めた。









…行き着く先が、どこであっても。












……………





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