スイッチ
あの時もしも、公園に行っていたら、また違った人生だったのだろうか。 末男さんが私に何を言うつもりだったかは、おおよそ見当がついた。 「もう、いい年なんだから」そんな母の言葉が頭の中で何度も何度も響いて逃げない。早く安心させたい気持ちとは裏腹に、決まりきった平凡に委ねる気にはなれなかった。 インク塗れの工場でも末男さんは優しかった。 時々内緒でチョコレートなんかを差し入れてくれた。化粧もしないで髪を束ねた私に「きれいです」と言ってくれた。そんな末男さんが嫌だった。
< 26 / 75 >

この作品をシェア

pagetop