セレーンの祝福
「……教会?」


週1回の教会の日。

それはまだ先の筈だったのに。

今日がたまたま?

それとも、ここのところ毎日通ってたの?

そんな疑問が渦巻いていく内に、師匠は教会の中へ入っていった。

さすがに教会の中まで入ったら師匠にばれる。

まず神父さんに見つからない訳がないし。

そう思い立って、扉は避け、裏庭へ回る。

教会へ来たなら、きっと師匠は「あの二人」に会いに行く筈だから。

あの部屋の窓から中の様子が見える。

子供の頃から通っている教会の造りは、熟知している。

そう、ここ。

この窓からなら……。

「って、師匠!?」

覗き込んだ先に師匠。

呆れた目でこちらを見下ろす師匠の表情は凍っているようにも見えた。

「……こんな隠れるところもないようなド田舎で、気づかれずに尾行できると思ってるの?」

硝子越しでも凛と伝わるその声で、彼は言ってのけた。

油を注していない窓は、きしんで開く。

私を招き入れると、そこはやっぱりあの部屋。

二人は相変わらず花の中で静かに横たわっていた。

「師匠、最近様子がおかしかったから……」

一体何してるのかと思って……。

口中でもごもごと呟いた言葉を拾い上げて、師匠は首を傾げる。

やがて合点がいったように目を見開くと、二度、私の頭を撫でたのだった。


「暫くここを離れるなら、準備が必要だと思ったからね」

いつものように彼らの手に己の手を添えて。

そっと伏せた睫が、日の光で銀色に輝いていた。

「準備って……お祈りですか?」

「そう、お祈り。彼らがいつまでも幸せに寄り添っていられるように、ね」

言いながら、師匠は微笑んだ。
「というか……暫くここを離れるって……?」

「そうだよ」

やっと瞼を上げて、師匠はこちらへゆっくりと視線を移した。

何かを含んだような口元は、一向にそれ以上開こうとしない。

その続きは話そうとしない。

「……師匠?もしかして……」

「行きたいんでしょう?行こうか」


ラグス国へ。


一瞬、時が止まった気がした。











< 19 / 30 >

この作品をシェア

pagetop